チョッキ、ベスト、ジレ そして
「オーバーオールと似てるんですが、これはサロペットというんですよ。」
テレビの情報番組で紹介していた。
ファッションアイテムというのは、一見似た形でも名前が違ったり、同じものでもいつの間にか呼び名が変わっていたりして驚くことがある。
そして、なじみのあるアイテムも名前が変わるだけで新鮮に見えてくるから不思議だ。
「日本では、チョッキ、ベスト、ジレって3通りの言い方があって面白いな。」と考えたことがある。なんとなく違いはわかるのだが、せっかくの機会なので調べてみることにした。
●チョッキ・・・日本語の「直着」が語源だという説
●ベスト・・・英語のvest
●ジレ・・・フランス語のgilet
上記のような差はあるものの、基本的には同じ意味で使われているようだ。
とてもわかりやすい違いだし、ジレがフランス語というのもなんとなく予想できる。とくに調べる必要もなかったとさえ思う。
ただ、これを日常、且つコミュニケーションという視点から考えてみると、どうだろうか?
たとえば、一般の家庭を舞台にした、こんな一場面を想像してみた。
語り手は祖父である。
—————————————————————————————————-
今日は息子夫婦が5年ぶりの里帰りで我が家に来ている。
中学生と今年幼稚園を卒業する孫も2人いっしょで、とても賑やかだ。
私は息子とテレビを見ていて、妻と義理の娘は台所で何か楽しそうに話しながら料理を作っている。少し肌寒くなってきた季節。きょうは寄せ鍋のようだ。良い匂いがしている。
そして、孫たちはスマホや絵本に夢中だ。
「母さん、チョッキを出してくれるかね?」
「ちょっと待っててくださいね。ちょうどこのあいだ冬物を整理していたところですから」
本格的な寒さはこれからだが、今の時期ならチョッキくらいがちょうど良い。そう思った。
すると息子が「父さん、さすがにチョッキは古いよ。ベストだよ。」
たしかに、そうだなと思い。
「母さん、ベストを出してくれるかね?」と言い換える。
すると孫娘が
「おじいちゃん、ベストも古いよ。今はジレって言うんだよー。」とスマホを見ながら一言。
ジレとは?一体なんのことかはわからないが、基本的に私は孫の言いなりなのでとりあえず従うことにした。
「母さん、ジレを出してくれるかね?」
「ジレってなんです?お父さん。」少しイラついているような声。
この時点で、私は軽く途方にくれている。
― 少しの沈黙 ―
ふと、おとなしく絵本を読んでいた4歳の孫が顔をあげて一言。
「チョッキだよ。」
「え?」
孫が見せてくれた絵本の表紙には『ねずみくんのチョッキ』(*1)と書いてあった。
—————————————————————————————————-
ここでは主人公である祖父の立場に立って考えてみたい。
家族に振り回されるその姿はとても面白くもあり、それと同時に世代間のコミュニケーションの難しさも感じてしまう場面だ。
全世代で共通の言葉を探すというのは、意外と難しい。移り変わりの早いファッションの場合は尚更のことかもしれない。
時代の順序でいえば、日本の場合、チョッキ、ベスト、ジレの順番で一般的になってきたと思うが
私は、その次の名前があるのではないかと密かに想像(期待)している。日本の市場では次は一体何が流行るのか? インドネシア語ではベストのことを“rompi”というようだが、もしかしたら次は“rompi”かもしれないですね。
*1
ねずみくんのチョッキ・・・ネズミが主人公の絵本、ねずみくんが着ているチョッキを巡っての物語。日本では古くから愛されている絵本
Profile
-
”日常を少し違った視点で見てみる”をテーマに
自分の周囲、半径5メートル位にあるものなどについて書いています。
音楽やアート、文学が好きなグラフィックデザイナー。
Latest entries
- Fashion2024.11.15チョッキ、ベスト、ジレ そして
- Music2024.10.18Music Review |それぞれの「東京」の歌
- Lifestyle2024.08.26号外です! 号外です!
- Lifestyle2024.07.10沼から出てきた話