夏フェスとビールとカチャーシー

日本の夏といえば、花火や夏祭りなどいろいろあるが、音楽好きにとっての重要なイベントといえば「夏フェス」だろう。最近では全国各地で、規模の小さいものから大きいものまで、いろいろなコンセプトでフェスが開催されている。まったく有名ではない地方の小さなフェスに、自分の大好きなミュージシャンが出ていたりすることもあるので油断ならない。情報収集は必須だ。

何年か前の8月の終わり頃、音楽好きの友人達を誘ってフェスに行くことになった。

地元のフェスで規模はそれほど大きくはないが、海の近くでロケーションが最高なのだ。会場もほどよい大きさで、人もそれほど多くはなかったので、とてもリラックスできる空間だった。芝生の上で寝転ぶ感じが気持ちいい。

フェスがはじまり、バンドやソロのアーティストが何組か出てくる。お目当てのミュージシャンを見ることもできて大いに楽しんでいた。そして、ダラダラ飲むビールは格別だ。飲んだ瞬間から汗に変わっていく感覚がたまらない。水を飲むようにビールを飲む。

フェスの終盤、あるバンドが登場する。彼らはヒット曲もたくさんある全国的に有名なバンドだ。当日は他に目当てのミュージシャンがいたということもあり「あっ、出るんだ。なんか懐かしい」程度に軽く思っていた。のだが・・・結果的に彼らのライブは、その後何年経っても記憶に残るくらい楽しいものだった。

それが沖縄県石垣島出身のバンド「BEGIN(ビギン)」だ。1990年デビューでキャリアも長く「島人ぬ宝」や「恋しくて」などヒット曲も多い。

そして夕陽が落ちるころ、あの「涙そうそう」を聴くことができた。
ステージの後ろには遠くまで海が見えている。おだやかな波が静かに音を立てて、演奏と気持ちよく混ざっていく。なんともいえない美しい空気が会場を満たしていた。きっとみんな、あの瞬間はそれぞれの大切な人を想っていたのではないだろうか。

こういう体験をできるのが野外フェスの醍醐味だ。音楽を好きで良かったと思える瞬間。

正確なセットリストは覚えてないが、その次の曲が「竹富島で会いましょう」だったと思う。テンポの良い楽しい曲に会場は一気に盛り上がり、今まで座っていた人たちも続々と立ち上がる。

その時、ずいぶん昔に「カチャーシー」の練習をしたことを思い出した。

カチャーシーとは沖縄の踊りのこと。方言で「かきまぜる」という意味がある。というようなことをテレビ番組で説明していた。

たしかに手の動きは何かをかきまぜているように見える。その踊っている姿がとても楽しそうに見えて、何となくだが見様見真似で覚えてみた。覚えたといっても初心者なので当然動きはぎこちない。とはいえ、沖縄に住んでいるわけでも、沖縄出身の友人がいるというわけでもない。近所に沖縄料理の店があって足繁く通っているなんてことも全くない。せっかく覚えたカチャーシーは誰に披露することもなかった。(たまに思い出したように手の動きの確認はしていた)

しかし、この夏フェス、BEGINがステージに立って歌っているこの瞬間。「今こそ!」と思い「イーヤーサーサー♪」の掛け声にあわせてカチャーシーを踊った。とてもぎこちない踊りだったと思うが、それは最高に楽しい瞬間だった。 大満足で終わったフェスの帰り道「そうか、今日のために、あの時カチャーシーを覚えたんだな。」と思ってちょっと嬉しくなった。

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MA
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”日常を少し違った視点で見てみる”をテーマに
自分の周囲、半径5メートル位にあるものなどについて書いています。
音楽やアート、文学が好きなグラフィックデザイナー。

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