
松岡美術館へ行ってきました
12月のある晴れた週末、目黒区白金台にある松岡美術館の『中国陶磁展 うわぐすりの1500年』へ行ってきました。
松岡美術館は、初代館長の松岡清次郎氏が約半世紀をかけて蒐集してきたコレクションを紹介している私立美術館です。中国陶磁器から西洋・日本絵画、現代・古代彫刻まで幅広い時代やジャンルの美術品を収蔵するこの美術館では、すべて松岡氏の蒐集した所蔵品のみで展示会が開催されているそうです。HPには 「私立美術館は美術品を蒐集した館の創立者の美に対する審美眼を、その一つひとつの美術品を通して、ご覧いただく方に訴えるべきところ」と考えた清次郎の意志によるものです。一人のコレクターの軌跡をたどりつつ、時を超え、洋の東西を越え集った美の世界をお楽しみください とありました。
1800点あまりの所蔵品を1人で蒐集したこと、ひとりでも多くの美術を愛する人に楽しんでもらおうと美術館を設立したことに驚かされます。すごいですよね!
松岡美術館は1階が展示室1〜3、2階が展示室4〜6の計6室からなります。1階ロビーにはディエゴ・ジャコメッティの『猫の給仕頭』というブロンズ象があります。本来の用途は鳥の餌置きなんですが、とてもかわいらしくてずっとみていたい作品です。展示室1は古代オリエント美術、展示室2は現代彫刻、展示室3は古代東洋彫刻で、常設展示となっています。展示室1では古代エジプトの木棺を近くから見ることができます。
今回の『中国陶磁展 うわぐすりの1500年』は展示室4で開催されていました。
後漢時代から明時代までのおよそ1500年間の緑釉・三彩・青磁・澱青釉などの約50点が展示されていて、私が行った日は展示担当学芸員さんによるギャラリートークが開催されていました。タカハシさんという女性の学芸員さんと一緒に展示品を見ながら、いろいろ説明してもらえます。参加者は十数人いましたが、熱心にメモをとっている方もいました。私はまったく中国陶磁の知識がないので、展示品を見ながら説明を聞いていました。初めての体験でしたが、楽しかったです!

中国における釉薬は焼成温度の違いから大きく2つに分類されるそうです。
まず、低火度釉の鉛釉(えんゆう)が展示されていました。低火度釉は約700℃から800℃で溶けます。鉛釉を使用した緑釉陶器(りょくゆうとうき)は低火度で焼かれるためにもろく、副葬品(明器)として多く作られたそうです。明器(めいき)とは死者に添えて墳墓に納める葬具の一種です。後漢時代には建築明器が多く作られ、裕福な豪族の象徴ともいえるそうです。建築明器の楼閣には弩(いしゆみ)を構えた人がいて、池の中では鳥や亀や魚がいました。緑釉陶器には表面に銀色の斑点や光沢が見られる銀化(ぎんか)現象が生じているものもあり、緑釉陶器の見どころだそうです。

唐時代には、国際的な文化の影響がみられ、三彩とよばれる複数色の鉛釉をかけわけた陶器が多く作られたそうです。唐三彩(とうさんさい)は主に白・褐色・緑、および藍といった鮮やかな色彩の陶器です。皇族や貴族の墳墓への明器として作られたようで、生前の墳墓の主人に関係する事物がすべて唐三彩で作られて墳墓に納められているそうです。壺・皿などの器類、動物や人物を象った俑(よう)などいろいろ種類があります。ここでは西の方の文化の影響のみられる壺などが展示されていました。

低火度釉の次は高火度釉の灰釉陶器(かいゆうとうき)が展示されていました。高火度釉は約1200℃以上で溶けます。木炭や石灰を媒溶剤とする灰釉が有名です。この灰釉を改良したものが青磁釉だそうです。
宋時代には北宋後期官窯の汝窯・南宋官窯・耀州窯・龍泉窯といった名窯で青磁(せいじ)が作られ、最盛期を迎えます。青磁は幅広い色調が特徴ですが、釉薬の色合いを決める要因は多々あるそうです。還元炎焼成(窯の中の酸素が不十分な状態)では釉薬や胎土の中の鉄分が酸素を奪われ青味をおびます。酸化炎焼成(窯の中の酸素が十分な状態)だと黄色味がかかります。私たちがよく知っている青緑の青磁は還元炎焼成されたものです。釉薬の厚みにより色の濃さに変化がでるそうで、片切り彫りなどで釉薬がたまったところと薄いところの陰影も青磁の魅力のひとつです。ここでは龍泉窯(りゅうせんよう)で作られたものが多く展示されていました。

最後は澱青釉(でんせいゆう)です。宋時代の名窯の一つ、鈞窯(きんよう)で元時代以降、
澱青釉は多く作られました。澱青釉は珪酸(けいさん)と燐(りん)を多く含むため、乳濁しています。澱青釉の青は水色が強くてとても鮮やかできれいです。鈞窯では澱青釉と紫紅釉をあわせて施釉するものも多く、澱青釉の上に不規則に紫紅釉を流しかけて、水色の強い青みと上品な赤紫の斑紋のコントラストが美しい陶磁器が作られていました。展示されていたものもとても美しかったです。最初見た時はコントラストが強く感じられて刺激的な色使いだと思ったのですが、しばらく見ていると引き込まれるような感じがとても心地よく思われてきました。1階のミュージアムショップで、ポストカードを買うくらい印象に残りました!ギャラリートークをいれて約2時間30分、松岡美術館しっかり堪能しました。 玄関をでると、2匹の石の羊がいました!入る時には全く気がつきませんでした。受付の方に聞いたところ、この美術館のために作ったものではないそうです。松岡美術館は松岡清次郎氏の自宅跡地に建っているのですが、もともとこの場所にあったものらしいです。とても形がかわいい羊ちゃんたちです!2025年6月には、動物をモチーフとした展覧会も開催されます。機会があれば、猫の給仕頭と2匹の石の羊に会いにきてみませんか?
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