黒沢清の映画

2024年は黒沢清year!
今現在、存命中で世界で尊敬される大御所映画監督といえば、日本人では黒沢清でまず間違い無い。
もはや一見しただけでそれとわかる空気感、演出はすでに達人の域。ホラー映画の巨匠というイメージが強かったが、近年一気に再評価の兆しだ。
若い時から売れっ子監督かと思いきや、実はデビュー作が大コケ、興行裁判に負けたのをきっかけにヤクザ映画を撮るしかなくなった不遇の若手時代に、キャリアの端を発しているから面白い。
その後、様々な映画監督の助監を務め、当時の映画界のあまりの惨状に(詳しく知りたい方は「相米慎二・映画」で調べると、いろんな書籍があるので読んでみて欲しい)心底うんざりしたことから、自分が撮るときは9時〜5時撮影、掛け持ちで何本か並行して撮り、無駄を出さないという徹底ぶりなのだそうだ。
そのおかげで、コンスタンスに新作を見続けることができる、稀有な監督でもある。
アイドル俳優を主演にした、いかにも”商業用作品”もあれば時代物まで多数あるが、なんと言っても黒沢清といえば”ホラー”!

特に「CURE」は、日本版心理ホラーを発明した一作と言える大傑作。今でもたまに見たくなる。現在は俳優を引退してしまった萩原聖人の演技は、今見ても凄い。
当時中学生だった私は、公開時のポスターのおしゃれさに痺れた。(おそらくクローネンバーグの「戦慄の絆」オマージュだ)
そんな八面六臂の活躍の監督の新作が、2024年になんと3本も公開される!
とのことで、急いで見に行ってきた(2024年当時の話です)。

まずはアカデミー賞出品作「Cloud」。
菅田将暉主演・オールスターキャストのスリラー映画。
何気なく趣味で転売ヤー家業を始めた主人公(菅田)は、企業して本格的に事業展開していこうと郊外に家を買って恋人と移り住む。しかし徐々に奇妙な出来事が起こり始め、誰かに狙われているような気配を感じ始める…
これがほんの粗筋だが、見ていると中盤から全く想像できない話に転換していく。
黒澤監督お得意の不気味演出のキレもすごいが、話自体とても面白くて、堂々たるエンターテイメント作品。これからの日本映画を背負う若手俳優がたくさん出演しており、誰しも本格演技を披露しているので、大変豪華。
黒沢映画を一つも見たことがない人や、幽霊や血が怖くてホラーは見られない…という人には入門作品としてもぴったりだと思う。

次はセルフリメイク作「蛇の道」。
以前哀川翔主演で作った作品を、フランス資本でセルフリメイク。
フランス側から「パリで作品を作らないか」と打診があり、ご自身が作り直したい、と企画した作品。
こちらもスリラー映画と言えるが、あまりに不気味で逆に笑えてくるシーンも多く、監督の円熟ぶりが窺える。
(この映画にちょい役で西島秀俊が出ているのだが、これはフランス配給会社側から「どうにかしてあのsexy-guyを出してくれ」と頼み込まれ(西島氏はフランスでも大人気なのだそう)、多忙な西島氏のOFFの日たった3日間に急ぎパリまで来てもらって、速攻で撮ったシーンらしい(笑))

粗筋は、ある日娘を惨殺されたアルベールという男性が、精神科で出会った日本人医者サヨコ(柴咲コウ)とともに、犯人への復讐を企て、徐々に児童売買の組織に接近していく…というストーリー。
まるで復讐に燃える暗い話かと思うのだが、出てくる人物全員、本当には何を考えているのかが全くわからない。
昨今流行の伏線回収もののようなわざとらしさはないのに、ずっと目が離せない不思議な魅力の映画。
グロテスクなシーンはないので、一番見やすいかもしれない。

3本目は新作ホラー映画「Chime」。
こちらは現在の映画界の衰退を防ぐべく開発された、購入して鑑賞するためのネット動画プラットフォーム「RoadStead」が、発足第1作として黒沢監督に依頼した短編映画。
こちらについては…語るのも怖い。なにせ見終わった後が一番怖い…
どこにでもありそうな日常を撮っているのに、何かがおかしい。
もう何もかも狂っている。

でも、どうして狂っているのかわからない。

Roadstead | DVT platform 世界初のDVTプラットフォーム roadstead.io

購入しなくてもレンタルで見ることもできる。
黒沢ファン/ホラー映画ファンは必見の作品。

以上三つを一気にみていて、最近の黒沢監督に感じるのは、ジャンルというものを越えようとする姿勢だ。
頼まれ仕事は確実にこなす器用さの中に、独特の”描きたい世界・撮りたいシーン”を1作内で調和させて描こうとしているのがわかる。
そうなると、これはホラーだ、コメディーだ、ロマンスだ、とは定義し難い新しい世界観で、もう黒澤監督にしか作れないものとなっていく。

そして怖いシーンが多いはずなのに、何故だかずっと見ていたくなる、ある意味清々しさすら感じるのだ。
それは、顔のアップがほとんどないスタイリッシュな構図だけでなく、黒澤監督が描く人間の「素直さ」にあると思う。
どんな悪行も殺人も振る舞いも、徹底的に”ただ当人の原理としてはやる必要があるからやっている”というクールさがあり、誰もいちいち深刻に考えたり悔恨したりしない。
その淡々とした人物描写に”人ってこういうもの”という不思議な説得力があって、わざとらしくひねくれたものには見えないのだ。 これは黒沢監督本人の性格にもあるように思う。
監督のインタビュー映像を見ていると、どんな時も表情を崩さずに、淡々と語るその姿は、映画に出てくる殺人者そのものなのだ。

Profile

momoPB
momoPB
新潟県出身。田舎生まれ女子校育ち。
最近クラシックバレエを習い始め、怠惰な心身を鍛えるべく日々奮闘中。
趣味はいろんな国のオーガニック商品のパッケージ集め、アプリで縁起のいい方角を探すこと。
好きな食べ物は炊き込みご飯、苦手なものはマヨネーズ。

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