
お金について考えるとき、ちょっと参考になるかもしれない小説
今の時代の空気がなんとなくわかる場所。わたしにとっての本屋はそんな存在です。
スケジュールに余裕があれば週に数回は行って、1〜2時間ほど店内を回りながらいろいろなジャンルをチェック。情報収集やリラックスしながら過ごします。
最近の日本の本屋で感じるのは、やはりお金にまつわる本の多さでしょうか。(本当に多いです。)「お金を貯めたい」「増やしたい」「投資のすすめ」「FIREしたい!」「新NISA」についてなどの本が店頭には多く並んでいます。これも時代の姿でしょう。
以前から、経済に関する知識はこれからの時代に必要なこと考えていたので、勉強のために関連する本を何冊か買ったのですが、どれも難しくて途中で断念。面白く読んだものもありますが大体が部屋の片隅に積まれたままです。
「あぁ、読んでない本がどんどん増えていく、、」と思いながら本棚の整理をしていると、ふと目についた本がありました。以前に何度か読んでいて、その視点の面白さが好きだった小説です。
それが太宰治(*)の短編小説「貨幣」です。
太宰治といえば日本を代表する作家の一人。「人間失格」や「走れメロス」が有名ですが、作品や私生活の影響で、神経質で暗く、退廃的なキャラクターとして世間ではイメージが固定されているように思います。でも実はとてもユニークで軽やかな作品もあるのです。女学生の一人語りで進む「女生徒」なども有名ですよね。この幅の広さが根強いファンが多く、長く読まれている理由の一つのようにも思います。

さて。「貨幣」のあらすじを紹介させていただくと
戦後の日本を舞台にした貨幣(百円紙幣)の話です。少し変わっているのは最初から最後まで貨幣視点で話が展開してくこと。
物語は、主人公である紙幣が東京に出てきて体験したことを現在から振り返るかたちで始まります。
最初の持ち主は若い大工。そこから何度も持ち主は変わって移動していく。時には質屋の金庫に入れられたり、くたくたになりながらも紙幣は持ち主をいつも見つめ続けています。
一体、物語の最後はどうなるのか? 誰のもとに届き、紙幣は何を思うのか?
結末は是非読んでたしかめていただきたい。わずか20ページにも満たない作品です。

2024(令和6年)年7月。20年ぶりに新紙幣が発行され大きな話題になりました。
世の中は電子マネーが主流になっていく流れです。とても便利。ポイントが貯まるのも嬉しいですが、この小説のことを思い出し、ときどきは財布の中にいるお金の体温を感じながら付き合っていくのも良いのではないかと思うのです。
1946年(昭和21年)に発表された作品ということですので、現在の価値観で見ると「おやおや?」という表現も多いのですが、その時代性も含めて読んでいただければと思います。
そして、モノを「擬人化」するという発想は物作りの面でもとても参考になるのではないかと思います。
*太宰治は日本の有名な作家。代表作は「走れメロス」「人間失格」「斜陽」など
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”日常を少し違った視点で見てみる”をテーマに
自分の周囲、半径5メートル位にあるものなどについて書いています。
音楽やアート、文学が好きなグラフィックデザイナー。
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