
隠れたSF漫画の大傑作「なるたる」〜骸なる星 珠たる子〜
星が、その子を導く――。
小学校6年生の玉依(たまい)シイナが島で出会った、人の認識外のモノたち、成竜、そしてホシ丸。シイナの日常が、ゆっくりと、しかし確実に変わりだす。少年少女が織り成す、地球的スケールの物語が始まった…
あらすじだけ聞くと、エヴァ風味世界系ジュブナイルもの。
実際その通り。
終わり。
…と言いたいが、ぜひたくさんの人に読まれてほしい漫画なので、あえて詳しく説明してみたい。
少年少女が地球外生命体&戦闘兵器にリンクし、社会(=大人たち)と戦い、世界を救済する…なんて、死ぬほど使い古され擦られすぎて跡形もないテーマだが、この漫画は作者独自の解釈が加えられている。
学園ものかと思えば、だんだん様子はおかしくなっていき、謎の全貌が見え始める…
どうしても10代の多感な子供を描くとなると、自動的に鬱屈した子が浮かんでしまうが、今作の主人公は懸命に普通の日常を楽しもうと生きる、真っ直ぐな明るい子だ。
帯同する謎の生命体ホシ丸は、ちょっと「マジカルたるるーとくん」にも見え、あまりに可愛くて悶絶級である。一切喋らないのに表情豊か!
作者・鬼頭莫宏氏の描く戦闘描写や飛行シーンは独特で、動きが強調されていないことで余計こちらの想像力を掻き立てる。
同じ飛行シーンの表現でも、例えば、宮崎駿はとにかくいつでも「風」が吹き抜けるが、鬼頭氏は「空気」。
繊細なのに、銃器はちゃんと重そう見える。
トーンを使わない空や、効果線を排し、余白の多い絵は、複雑な内容の邪魔をしない。
最も大きな特徴は、あくまでもどこにでもある日常生活を送る若者の”普通の苦しみ”を、丹念に寄り添って描いているところ。
自分の気持ちを言葉にできない(説明しない)10代の若者たちのセリフの異常なリアルさ。
誰しも、何もかもうまくいかない社会で、いくら自分に絶望しても生きていかなければいけない現実というトラウマを抱えて生きている。
その形容し難い心情を、”竜(戦闘体)への同期”として抽象化していくのだ。
今作はその尋常ならざる生々しさが、単なるSF漫画を超えた大きな魅力。
5巻あたりまでは、残酷描写はあれど特別な人物間で行われる秘密計画でしかないが、段々と相関図が出来上がってきてから、一気に容赦無く残酷世界が侵食してくる。
以降は、あまりにグロい世界がこれでもか!と続くのでかなり読む人を選ぶが、とにかく先が気になって目が離せない。
全12巻完結だが、8巻頃から複線回収展開になっていき、一気に全て終わりまで突入する。
連載漫画の特徴だが、この辺りから作者自身の精神の危うさを感じさせる雰囲気がかなり生々しく漫画に反映されており、相当危ういものがある。
ここまで読むと、もう最後まで付き合うしかない…
可愛い絵に誘い込まれて読み始めた私は、あまりの惨劇に時折ページをめくることができず、数日寝かせたりしていた。
怖い..もう読みたくない…けど、先が気になる!!
そして、読んでまた後悔する…怖い…もう読みたくない…
連載当時は99年で、当時の日本社会の空気そのものをパッケージしたような得体の知れない緊迫感は、エヴァシリーズと全く同じ。
しかし大きく違うのは、エヴァは結局、何をしても許される”選ばれし少年”。だが、「なるたる」は”誰からも何も期待されていない普通の女の子”なのだ。
確かに肉体は弱い、が、闘うのには理由がある、なぜなら”選ばれていない”から全てが”自分自身で決めたこと”なのだ。
エヴァは盲目的に背負わされるが、「なるたる」には意志がある。
その心の強さ=純真さ、みたいなものが、これだけ残虐な漫画を最後まで読ませる大きな原動力になっていると思う。
世界がどうなるのか?よりも、私は「自分自身を知り、真に受け入れる」主人公の姿にいたく共感した。


ここまで書くと、感動のラストが待っているような気がするかもしれない。
個人的には、読者のために”ちゃんとした結末”を用意した、という印象が強く、見ようによってはハッピーエンドだと思う。
昨今、伏線のための伏線のための伏線…みたいな、時間を奪うだけの漫画が多いが、今作はとても誠実だ。
そして読み終わってからまた1巻に戻ると、全ての謎が、最初から考え抜かれた上で描かれていることがわかる構成になっている。
長期連載で、これだけの構想をまとめ上げて設定に破綻がなく、全話面白いまましっかり終わらせられている作家は他に知らない。
鬼頭氏はとにかく漫画に対して真摯なのだ。
魅力的なキャラクターや想像力溢れる綿密なストーリーで読者を惹きつけておきながら、作者自身はどこまでも現実から離れない。
その芯を失うことがないエンディングは、賛否分かれる所だが、私には強烈に虚しく、だけどどこか癒されるものがあった。
鬼頭氏は「なるたる」の直後に「ぼくらの」を連載しているが、「ぼくらの」は、「なるたる」で言いたかったことをよりわかりやすく分解し、さらにゲーム趣味をふんだんに加えた内容になっている。
キャラクターが単純化され、読者に子供を想定しているのがわかる。(というか出版社側の都合を感じる)
だから、私のように、鬼頭莫宏を知らないまま大人になった人には、ぜひ、「なるたる」から読んで私と同じ気持ちになってほしい…
これは漫画でしか表現できない”リアル”なのだ。
死んでしまいたいほど酷い世界でも、自分の大切な人は生きていてほしい。そんなわがままは通るわけがないのに、誰かのそんな思いで、私たちは今日も生かされ続けているのかもしれない。
そんな漫画だ。
Profile
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新潟県出身。田舎生まれ女子校育ち。
最近クラシックバレエを習い始め、怠惰な心身を鍛えるべく日々奮闘中。
趣味はいろんな国のオーガニック商品のパッケージ集め、アプリで縁起のいい方角を探すこと。
好きな食べ物は炊き込みご飯、苦手なものはマヨネーズ。
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