少し未来のBGM

働いている人たちにとって小さくもあり、大きくもある問題があります。それが職場での「BGM」。つまりバックグラウンドミュージック。

会社によっては、常にラジオや有線放送が流れていたり、逆に無音だったりする場合もありますよね。広いオフィスの場合、何も音が流れてないのも、それはそれで静かすぎな気もしますし、そのさじ加減というのは実に難しいものです。とくに、デザイン関係の仕事をしている方たちは音楽好きな人が多い印象があります。そして音楽が好きな人ほど、自分の好みと違う音楽が耳に入ってくるのが苦手だという人も多いのではないでしょうか? 逆に本当は音楽やラジオが流れているのが嫌なのに、立場上言えない。そんな方も多いでしょう。

職種によっては、それぞれが好きな音楽をイヤホンやヘッドホンで聴きながら仕事ができるという環境の方もいるかもしれません。創造性が求められる職場においては、集中して作業できるという意味では音楽はとても効果的ですよね。

BGMは、その空間を和ませてくれたり、雰囲気を柔らかくしてくれる効果があります。たとえば大きな商業施設でBGMが流れていなかったらと想像すると、少し緊張感がありますよね。

私が以前に働いていた職場はお店だったのですが、そこではいつも洋楽の有線放送が流れていました。有線放送なので1周終わるとまた同じ音楽が流れてきます。それが延々と繰り返されます。そこで私は初めてボブ・マーリーを知ることになるのですが、とても感動して好きになったことを覚えています。知らない音楽との出会いを作ってくれるのもBGMの良いところです。

逆にフリーランスで働いているデザイナーの方は、「職場」という閉鎖された空間から解放され、お気に入りの音楽を流している人も多いのではないでしょうか?

現在の私自身でいえば、音楽を流すこともできるし、流さないこともできるという環境にいるのですが、音楽はまったく流してません。

音楽は、それなりに好きですし、昔は音楽を流しながら仕事していました。リラックスしたいときはアコースティックな音、ボサノヴァがとても好きで、一時期よく聴いていました。忙しい時は、その忙しさにあわせてテクノやハウスなどBPMの早い音楽をながして気持ちを上げたりということもよくありました。でも、だんだんと音楽自体が気になるようになってしまい、仕事に集中できなくなってしまったんです。最近では仕事中に音楽を聴くことは全くなくなりましたね。

そのため耳に入ってくるのは、空調の音とドアの前を歩く人の足音。そして遠くでうっすら聴こえてくる誰かしらの声や、何らかの音です。つまり環境音ですね。でも、よくよく考えたらこれも立派なBGMだと思うのです。作曲家のジョン・ケージの有名な曲に「4分33秒」というタイトルの曲がありますが、まさにそれと同じです。

職場に限らず、デパート、本屋、コンビニ、バー、美容院、果ては友人の車の中などBGMはいろいろなところに存在しています。しかし音の好みは人それぞれ、そして音の聴こえ方も人それぞれ。実はBGMの最適化というのはとても難しい課題だと思うのです。

そして、私はこんな未来のBGMの姿を想像します。

朝、職場に来て「PLAYボタン」を押すと、その場の音(人の声、パソコンの音、空調の音、環境音など)をAIが収集。その音をリアルタイムでサンプリングする。その中から不快と思われる音を、ほどよく消して、その場/その瞬間に最適と思われるBGM(メロディー)を生成して、その瞬間/空間に適した音量で流してくれる。そんな空間。たとえば雨が降っていたら、その音もサンプリング。鳥の声が聴こえればそれも収集して分解、再構築してリアルタイムでBGMに転化していく。そして、その日に生成されたBGMはプレイリスト化され後で聴くこともできて、かつ商用利用もできるようなサービス。そんなことを期待しています。未来が来るのが楽しみです。

Profile

MA
MA
”日常を少し違った視点で見てみる”をテーマに
自分の周囲、半径5メートル位にあるものなどについて書いています。
音楽やアート、文学が好きなグラフィックデザイナー。

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